二〇一一年一月一七日・其の壱

僕はベッドの上で目を覚ました。其処は知らない場所だつた。

酷く眩暈がする。瞼もロクに開かないし、視界がチカチカしてまともに物も見へない。
隣に男がゐた。見知らぬ男だつた。男は僕を抱き抱へ「大丈夫?」と問ひかけた。

其処は広い部屋で何人もの男女がくつろいでゐた。大きな水槽がいくつかあつた。それは楕円だつたり、蚕豆の様な形をした柱体の水槽ばかりで、どれも手入れが行き届いてゐた。ベッドがある場所は他よりも少し高くなつてゐて手すりで区切られてをり、三〜四段の階段を下りると水槽やソファ(其の部屋にゐた何人もの男女は大体がソファで寛いでゐた)がある場所になる。僕は覚束ない足取りで水槽に近付く。
最初に見た水槽は楕円柱の形をしてゐて中は少し青く、琉金に似た形の金魚が四匹ゐた。其れは間違ひなく金魚だつたけれど僕が見たことのない金魚だつた。一匹は赤と白色で、背や鰭の部分だけが赤く他の部分は白かつた。もう一匹は白と黒で同じく背や鰭の部分だけが黒く他の部分は白かつた。後の二匹は其の二匹の子供らしく、其の二匹より二回り程小さくて白がメインで所々に赤色と黒色が点在してゐた。四匹とも、透明鱗は一つもなくて普通鱗ばかりで色の境目はとてもくつきりとしてゐた。僕が今迄に見た金魚のどれとも違ふ美しさで、広い水槽の中を贅沢に、自由に泳いでゐた。
僕は次の水槽を見に行く。ソファで寛いでゐたうちの何人かゞ僕に話しかける。彼等は僕に親切だつた。二つ目に見た蚕豆の様な形をした柱体の水槽の中には沢山の小さな魚達が所狭しと泳いでゐた。恐らく熱帯魚であらう小さなその魚達は、銀色の体にキラキラと色とりどりな赤や青や黄の鱗を輝やかせてゐた。

二つ目の水槽を眺めてゐると目覚めた時に隣にゐた男がふらふらとしてゐた僕の体を支へに來た。男に「僕に何かキめさせてヤつたゞらう?」と問ひかけると、男は「もともとキまつてゐるのかと思つてたよ」と答へた。相変はらず酷い眩暈がして視界は点滅して定まらなかつた。瞼を重く開けてゐることすら困難だつた。