二〇一一年一月一七日・其の弐

師匠のバンドのライヴに行つた。

初めて行く其の会場は大きな建物の中にあつた。其処で僕は偶然高校時代の友人Aに遭遇した。如何やら彼女も僕と同じく師匠のバンドを観に來たらしい。数年ぶりの偶然の再会に興奮して僕等は会話をする。取り留めもない会話。長い無駄なお喋り。ステージの右側にある、カウンターみたいなものに頬杖をついてだらだらと僕等は喋り続ける。
話し続けてふと気付いたら全てのライヴが終はつてゐたて僕はライヴを観る事が出來なかつた。何時の間にか友人Aも消えてゐた。沢山のお客さんが來てゐたけれどその殆どは帰つてゐて、酒盛りをしてゐる対バンの見知らぬバンドマンとその身内が残つてゐるだけだつた。何人かゐた筈の知り合ひも、師匠のバンドのメンバーも何処にもゐなかつたので、気さくさうな見知らぬバンドマンに何処に行つかを訊ねると彼は「分からない」と答へた。

見知らぬ人ばかりの場所で居心地が悪く、僕は困つて取り敢へず建物から出る事にした。建物はとても入り組んでゐて僕は出口が分からず途中で出逢つた人に出口は何処かを訊かなければならなかつた。教へられた通りに進むと長くて細い階段があつた。出口に向かふ為に長い長い階段を下りる。階段は途中で何度か40°程の角度に曲がつてゐて、段差も幅も所々違ひ、一番酷いところでは一段が50センチメートル近くもあつた。僕は途中で何もかもの記憶が曖昧になり始めて、―今日は対バンは何だつたつけ、それともワンマンだつたつけ―と考へ始める。長い長い階段を下り乍。嗚呼、さうか今日は2マンだつたんだ、と思ひ出して一人で広い建物の中に取り残された事がとても淋しくなつた。
その建物は僕が想像してゐた以上に大きく、入つた時よりも入り組んで広くなつてゐて、其処から出るのは酷く骨が折れた。

建物を出てバス乗り場に向かつて外を歩いた。バス乗り場に行くとベースを背負つた友人Yがゐた。Yは「如何したんですか?」と云つてから「嗚呼、さうか、××を観に來たんですね。」と云つた。僕は彼に「Yちゃんこそ如何して此処にゐるの?」と訊ねた。