二〇一一年二月八日

渋谷駅からルート246をまたぐ立体歩道でKを見つけた。Kはいつもの様な恰好でニットキャップを被り、薄茶色のジャケットを着てだぼだぼのジーンズを穿いてゐた。Kは僕の少し前を歩いてゐて、僕は急いでゐた。スタジオの時間に遅れてゐたからだ。
Kかな?と思ふ。恐らくKだとも思ふ。何度も見た背格好で間違へる筈もない。僕は聲をかけようとするが、人ごみと騒音に掻き消されてKにその聲は届かなかつた。