二〇一一年三月三〇日

部屋は真暗で(いつも寝る時は暗闇にしてゐる)気付くと布団越しに僕の上に男が馬乗りになつてゐた。叫び聲を出さうにも、恐怖で聲がひとつも出ない。馬乗りになつてゐる男は恐らく見知らぬ男、それだけは分かつた。暫くして、やつと聲が出る様になつた所、「君、誰?」と尋ねると「分からない?」と男は僕に問ひかけて來た。
確かに僕には心当たりがあつた。近頃僕の事を尾けてゐた男だ。僕は男の金的を狙つて動けなくし、部屋の灯りをつけた。果たして部屋の中は滅茶苦茶で、ピンクのふわふわなラグはくしやくしやに折れ曲がつて硝子棚の側に置かれ、PCには表示してゐなかつた画面が表示されてゐた―PCの中なんて、一番漁られて困る場所だ―。此奴、僕を犯さうとする前に何もかも漁つたな、と確信を得た僕は心底腹が立ち、男を怒鳴りつけ問ひたゞした。結果、男はにやにやし乍さうだと答へた。そして「お土産にお菓子も購つて來てあるから」と云ひ、ベッドの横に目を横にやると、ロフトの床には袋から零れたスナック菓子が散らばつてゐた。逃げるまでもない、此奴を警察に突き出さう、と思つた。

過去に合気道で覺えた固め技を決めて、男が逃げない様にして男を連れ家の外に出た。家の外に出るとやたら警官がゐた。丁度いゝと思ひ、事情を説明すると「今は鳥渡大事があつてこれだけの人数が集まつてゐるんです。だからその程度の事に構つてゐる暇はなくて。」と云はれて仕舞つた。