二〇一一年四月二五日

遠くの島で行はれる爬虫類の大きな販売イベントに行つてゐた。其の島がある場所で、師匠のバンドが出るイベントもあり、僕の友人達について行く形でその島に行きイベントを見てゐた。沢山の蛇達がゐて、僕の蛇二匹―コーンスネークのスノーストライプとアネリだ―も出品してゐた。
そのイベントの最中では、誰かの蛇が何度も脱走した。蛇が脱走したのを見る度、聞く度に「僕の蛇だつたら如何し様」と僕は不安になり確認に行つた。その度に僕の蛇ぢやないことを確認して―同じ種類の蛇でも愛蛇は鳥渡した模様や色や大きさの違ひで分かるのは当然だ―安心をする。沢山の蛇が沢山のケースに入つてびつしりと、同じ大きさの木枠と硝子で仕切られた中で綺麗に陳列されてゐる。その中にケージが入つてゐて各々の飼育環境も分かる。蛇はケースの中で各々くつろいだりそわそわしたりしてゐる。蛇を眺めてゐると途中、僕の顔の横に水色の大蛇がぬつと顔を出した。僕は驚いて(でも其れは可愛い蛇だつたのだけど)ケージと硝子の扉が閉まつてゐません、と係の人に報告に行つた。

コーンスネークのアネリとアメラニが地面を這つてゐた。お互ひ逆さまの向きになり重なり合つてゐる。「うわ、交尾してゐるよ。」と誰かゞ云ふ。僕が其の二匹を眺めてゐたら突然刃物が振り落とされて蛇の胴体と頭部が二分された。二つに分かれた蛇二匹を眺めてゐると、顔と躰が別々になり乍もうねうねと動いてゐた。それはとても奇妙で僕が初めて見るもので、そして酷く不気味なものだつた。

沢山の蛇を見るとその日の終了時間に為つた。僕は僕の蛇が何処にゐるのかをずつと捜してゐた。其処ではどの蛇が誰の蛇か、本人には分からない仕組に為つてゐた。あまりにも沢山の蛇がゐて、あまりにも沢山のケージがあつた。その所為で僕は―情けない事に―自分の蛇がどれか、最後まで見つけ出せずにゐた。

「此のなつき方と色は間違ひなく俺の蛇だ」と云ふ聲が聴こへてきた。男の聲だ。其の男は「だから俺はもう帰る」と云つてゐる。なんだらう?と思つて係の人に話を聞くと、このイベントは二日連続で行われる物だつた。僕は其れを知らなかつた。僕はホテルもとつてゐない。師匠達と一緒に帰るつもりでゐたのだ。ライヴで來てゐた知り合ひ達は既に帰りの船に乗る支度を始めてゐる。「如何し様?」と僕は相談する。だけど如何し様もない事も分かつてゐた。係の人は、硝子張りに為つた蛇のケースに木の蓋を閉じ鍵をかけ始めてゐる。僕は僕の蛇がどれだか分からない侭にゐる。僕は泊まるところがなく、帰りの道だけがあつた。でも、帰る事は出來なかつた。一人取り残されることも、明日のイベントに参加しなければ僕の蛇が手元に戻つて來ることが出來ないことも分かつてゐた。僕は、深く深く、孤独を感じてゐた。