二〇一一年一月二二日

暗闇の中赤外線ランプの光で赤く照らされた蛇の飼育ケージが3つ並んでゐる。左から順にカピス、No.3、リコリスだ。
カピスは随分太く大きく為つて餌を食べた直後の様にお腹の辺りが膨れてゐた。立方体の硝子ケージの中では狭いくらゐに大きく為つてゐたし、色も白色からアメリカのキャンディみたいな鮮やかな赤にオレンジや黄色が入つた色に変はつてゐた。僕は色が変はつてゐることには何の疑問も持たず、お腹が膨れてゐることが気になつて眺めてゐたら躰に脱皮した皮が張り付いてゐることに気が付いた。ちやんと脱皮出來てゐるかなア、とケージ越しに眺めてゐると硝子の扉をないものかの様にするすると此方に通り抜けて來た(さう、お化けがそんな風に壁を通り抜けると云はれてゐるみたいに)。僕の方に近付いて來たカピスの頭は僕の握り拳くらゐの大きさに為つてゐたし、躰もそれに見合つた太さと長さに為つてゐた。

間近で見てみると脱皮不全をおこしてゐて、所々に上手に脱皮しきれなかつた皮が張り付いてゐた。剥いてやらうと思ひ手でぱりぱり一部分の皮だけ剥いて、思ひ留まる。―さうだ、ぬるま湯に浸してから剥かないと―、と。

僕はカピスを持つて歩いた。其処は學校の様な場所でトイレの前に理科室の様な銀色のシンクがあつた。丁度いゝと思ひ、水温をぬるま湯程度にして水を張り、そこにカピスを入れる。カピスはシンクの中をうねうねと泳いでゐた。そろそろ皮もふやけた頃かな、と思ひ僕は剥け切つてゐない皮を剥がし始めた。
一枚剥がすと、新しい皮まで剥がれて仕舞ひ白い肉が剥き出しに為つた。僕は焦つて近くでよく見ようと思ひカピスを手に取つて薄暗い中で目を凝らしまじまじと眺めた。すると、頭の少し後ろの部分の腹側の肉が爛れてゐた。其処だけ細くなり、赤い肉が飛び出してゐる。僕が其れを眺めてゐるとたまたまトイレに來た男の子が僕と蛇を見つけ「ひいッ」と聲をあげた。僕はそんな男の子の事は気にせず、カピスの爛れた肉を見て酷く動揺してゐた。