二〇一一年一月二七日

実家の近所の家ではドーベルマンを飼つてゐた。其のドーベルマンはとても大きく凶暴で既に何匹か近所の犬を嚙んで滅茶苦茶にしてゐた。
近頃其のドーベルマンが放し飼ひにされてゐて、僕の家の近所をもうろついてゐたので僕は心配してゐた。ある日勝手口を開けて外を見るとドーベルマンが家の庭にゐた。僕の愛犬のステラも庭にゐたけれど、その時はドーベルマンが大きな顔をして庭をのさばつてゐたゞけなので「またこいつか」と思ひ乍あまり気に留めなかつた。

暫くして勝手口からもう一度確認してみるとドーベルマンが大きな体でステラの上にのしかゝつてゐた。僕は「しツしツ」と追ひ払はうとしたがなかなか動かない。僕もドーベルマンが怖かつた。―何しろ其のドーベルマンはとても凶暴なのだ。とても大きく、見た目も怖い。―だけど、ステラは血だらけでぐつたりしてゐた。死んでゐるのかも知れなかつた。僕は怒つてドーベルマンの躰を殴つて蹴つてなんとかどかさうとしたが一向に動かない。ステラは血まみれのずたぼろだが、ドーベルマンにも少しだけ傷があつたのでステラも必死の抵抗をしたのだらうと思つた。だけどボーダーコリーのステラと、凶暴なドーベルマンぢや勝敗は目に見えてゐる。
ドーベルマンがちつとも動かないので僕はドーベルマンの飼ひ主の家に直接文句を云ひに行つた。家の庭にやつて來たドーベルマンの飼ひ主はドーベルマンは連れて帰つたけれど「うちの犬をこんなに傷だらけにして!」と怒つてゐた。僕は傷だらけで死にかけなのはステラではないか、と思ひ激昂して「ふざけんな、リードにつないでおけよ!常識だらう!」と怒鳴つた。飼ひ主の家には他にも女が二人ゐて其の二人は酷く傲慢で、見た目もパつとしない女達だつた。
その家の前を通つた時に女達に塀越しに文句を云はれたので僕は「五月蠅い、此の売女も出來ないブスめが!」と大声で罵つてやつた。

それから家に帰ると我が家で緊急会議が開かれてゐた。其のドーベルマンに飼ひ犬を滅茶苦茶にされた(ある犬なんかは嚙み殺された)家の人達が集まつてゐた。其の放し飼ひにされてゐる凶暴なドーベルマンと非常識な飼ひ主を如何するか、と云ふ議題だつた。
皆がテーブルを囲んで椅子に座つてゐた。僕は母親に「僕も参加させて」と云つたが僕の分の椅子はなかつた。テーブルの隣に金属の小さな台と硝子の器の様なものを積み重ねたシャンパンタワーに似た形のオブジェがあつた。その金属の小さな台を椅子にしようと思ひ、硝子の器の様なものをいくつもどかしたけれど、金属の台は台ではなくたゞの棒になり、いくら硝子の器の様なものを外しても棒でしかなく、僕が座る席はなかつた。