二〇一一年二月二四日・其の壱

僕は繁華街にゐた。道を歩いてゐると、たまたまK姐さんに出逢つた。それから他のバンド友達のKも、偶然に歩いて來て、三人で「おゝ」と云ふ感じになつてゐた。K姐さんのメイクがいつもよりもばつちりだつたので(顔に色とりどりの小さな星のスパンコールが沢山ついてゐて、小さなラメもちりばめられ、普段は薄いアイメイクもばつちりだつた)「今日はなんでそんなにメイクがばつちりなの?」と訊くと「今日はメイクさんにメイクして貰つたんだよね。」と彼女は答へた。
さうして彼女のバンドの新しいCDがインディーズチャートの三位になつたことを聞いた。僕とKはおめでたう、と喜んだが彼女は不服さうだつた。「だつて、地元の友達に訊いたらうちのバンド、名前も聞いたことないつて云ふんだもん…。」としよんぼりしてゐた。
僕は(確かにインディーズチャートの三位だつたら音楽に興味ない人は知らないだらうからなア)と考へつゝも流石に云ひ出し辛くて黙つてゐた。

それから二人と別れて僕はデパートに行つた。靴が目当てゞデパートに行つたのだけれど結局気に入つたものがなくぶらぶらしてゐた。すると一階出口近くで明らかに他の店とは異質な、インフォメーションでもなさげな場所があつた。其処には二人の女性がゐて、二つの長机があり、長机の一つは横に、もう一つは少し場所をあけて縦に並んでゐて椅子は向かひ向かひに合はせて四つあつた。一番異様なのは彼女達の格好だつた。躰のシルエットにぴたりとあつた光沢のある服を着てゐて其れはラインの短い丈の白や銀色や黒で構成されたノースリーブの服で、その下には同じ色合ひ・素材のミニスカートを履いてゐた。手首には黒色のベルトに大きな銀色のスタッズのついた腕輪をしてゐて、如何みてもデパートの店員、と云ふよりはSMやフェティッシュの匂ひがした。
一人の女性は机越しに向かひ合つた男性と話をしてゐて―そしてとても偉さうな口調で男性に対して話してをり、男性はへこへこと申し訳なさげにだけどにやにやと嬉しさうに話してゐた―もう一人の女性は机の近くに立つてゐた。
僕は興味をもつたのでもう一人の女性に話しかけてみた。すると如何やら此処はお店の一種で、ある種のSMクラブ的な、男性がお金を払つて女性に怒られたり無下な扱ひをされる為のお店だと教へて呉れた。男性と話してゐる女性も、男性に対してはとても酷ひ態度をとつてゐるのに僕に対してはとても親切にフレンドリーに接して呉れた。
男性と話してゐる方の女性が男性に対して「私もうお腹が減つたわ」と云ふので、僕と男性と話してゐない方の女性が何か軽い食事を購ひに行かうか、と申し出た。(どうせなかなか此処はお客さんも來ないから、とその女性は云つた。)僕も特に用事もなく、その女性二人の事が気に入つたので、一緒にデパートの中の食品売場に向かふ事にした。